スポーツの価値を引き上げる F-connectが秘める可能性(後編)

かつてプロスポーツ界では「時間があれば練習を」という考えが一般的で、選手は競技の向上に多くの時間を割いていた。しかし現在は技術の研鑽はもちろんのこと、個人で社会貢献活動を行ったりスポーツ以外のジャンルで才能を発揮したりとスポーツ、スポーツ選手の価値が多様化している。きっかけは様々だが、現役Jリーガーの小池純輝と梶川諒太(ともに東京ヴェルディ)は“フットボールで繋げる、フットボールが繋げる”という思いでF-connectを立ち上げ、毎年児童養護施設に訪問している。今年はサッカーと農業がコラボした「エフコネファーム」を立ち上げ、活動の場を広げている。

F-connectを立ち上げた小池と梶川、途中加入し主要メンバーとして活動している野村直輝(大分トリニータ)の3人が考えるスポーツの価値とは?

■F-connectの活動がスポーツの可能性を広げる

子ども達との食事の時間を楽しむ野村選手

――F-connectの活動を通して、プロ選手が社会に貢献できる可能性を感じられたと思います。その辺りについてはいかがでしょうか?

小池:これまで様々な活動をしてきましたが、アスリートの価値を感じる瞬間はありました。特に現役選手のうちにアスリートの価値をいろんなところに届けられるような存在でいたいと思っています。この活動を始めてからはより一層思いますね。子ども達や地域と密接な関係を築けるのではないかと思えるきっかけにもなっていますし、可能性は非常に大きいと思います。

梶川:施設の子ども達が18歳で施設を出なければいけない中、F-connectとして何ができるかを常に考えています。その一つがエフコネファームだと思いますし、将来的に彼らが働くことができる環境を整備できたり、興味を持ってもらえるような活動ができれば存在の意義があると思います。
スポーツ選手はよく社会貢献活動をしていると言われていますが、その大半はオフシーズン。F-connectではシーズン中でも施設に訪問して試合に招待しているので、他の団体やクラブでの活動とは少し違った価値が出せているのではないかと思います。

野村:F-connectの活動は変化しているときで、「できたらいいな」と思っていたことがどんどん出ています。まだ具体的に始められる段階ではありませんが、より多くの施設を訪問して子ども達に何かを還元できればいいかなと思っています。

小池:今の野村の話に関係するのですが、一昨年梶川と交流のあった神奈川県の施設に行きました。僕は愛媛FCに2年間所属していたので、久々の訪問になりました。子ども達と話をする中で、「サッカー選手で知っている選手は?」という話題になると、子どもから「本田圭佑」「香川真司」といった有名選手より先に「ノム!」と返ってきました。それってすごいことだなと思います。実力があって有名な選手はたくさんいますが、その中で会いに来てくれた選手の名前が挙がって。久しぶりだったので、僕の名前が出なかったのはショックでしたけど(笑)。でもそれくらいノムが子ども達に影響を与えていて、スポーツ選手が社会に貢献できる縮図のように思えました。彼らにとってはノムがヒーローだったのだろうなと思える瞬間でした。ノムは「これから子ども達に還元したい」と言っていましたが、「もう貢献してくれているよ」ということでこの話をさせてもらいました。

野村:この話は知りませんでした。ちょっと恥ずかしいですね(笑)

■様々な形でF-connectの活動を周知したい

毎年オフシーズンには各施設を招待したサッカー大会を開催

――スポーツ選手の価値を高めるという意味では素敵なエピソードですね。今後F-connectとしてやっていきたい活動はありますか?

小池:最初は梶川と何ができるか分からない状態で始めました。活動をしていく中で色々な経験をして「自分たちも何かできるのじゃないか」「もっとこういうことができるのじゃないか」とやりながら学んでいきました。児童養護施設には基本的に18歳までしかいられず、その後は自立をしなければいけません。一般と言われている子ども達が当たり前の様に受けている親からの支援はないですし、進学も大変で人数としてはやはり少ないそうです。就職をする子が多いのですが、失敗したり壁にぶつかると辞めてしまう子も多くいて離職率も高いと聞きます。僕たちはサッカー選手になるという一つの夢を叶えられたのでその選手たちと触れ合って、試合を見に来てもらって何か感じてもらったり、僕たちが学生時代にどういうことを考えていたかを伝えていきたいです。そして夢や目標を持つきっかけに、活力になってくれたらうれしいです。
そして最終的には就労支援までやっていきたいと思います。そう簡単ではないと思いますが、今回のエフコネファームでも雇用ができるようになれば、きっかけ作りから目標を達成するところまで関われる子どもが出てくればいいなと思います。

梶川:小池選手が子ども達へのアプローチを話してくれましたが、僕はF-connectのメンバーの成長を促していきたいと思います。僕自身、この活動を始めるまではとにかくサッカーで活躍したいとサッカーのことだけ考えていました。もちろんそれが悪いことだとは思っていませんが、選択肢を増やすことも必要なのではないかと思います。僕は人見知りで外に出ていくこともなかなかありませんでしたが、どんどん外に出ていくタイプの小池選手に引っ張ってもらいながら活動をして、自分の考えが変わったなという実感がありました。
またサッカー選手は取材こそ多いのですが、知らない人の前で話すという機会はあまりなく話せない選手が多いです。F-connectでは毎年イベントをしているのですが、最初は話せなかった選手も数年後には話がしっかりできている選手もいます。そうした成長を感じるので、活動を通してサッカー選手を引退した後も社会で活躍できるような人材を輩出できる組織になっていければ。もちろんサッカーに取り組んで代表に入ることも素晴らしいですが、活動を通して様々な考えが生まれて視野が広くなっていくので、この活動をもっと広めていきたいと思います。実際、F-connectの活動について聞かれることも多くなってきたので、興味を持ってくれる選手がどんどん増えていってほしいと思います。

野村:2人の話が長すぎて、自分が何を話そうか忘れちゃった(笑)。でも2人が話したことがF-connectの大枠の部分で、僕はそれを頑張りながらもっと認知を高めるために広報活動を頑張りたいと思います。野村直輝=F-connectの活動をしている人と認識されればいいかなと思います。先輩方2人が頼れる存在なので僕がやることはありません!

梶川:僕は昨シーズン徳島ヴォルティスに在籍をしていたのですが、前年は野村が徳島にいました。そこで普及活動を頑張っていたみたいで、僕がF-connectの話をすると「ノムのF-connectだよね」と言われました。先に僕らが活動を始めたのに逆転されていた(笑)。でもそれくらい地域ごとにやっていることを感じているので、これからも広げていってほしいです。

徳島で活動の輪を拡げる松澤選手(左)、野村選手(右)

――先ほど梶川選手の話で活動をしていく中で考え方が変わったという話をされていましたが、途中で加入された野村選手もそのような気持ちの変化はありましたか?

野村:まずは人としての幅が広がりました。サッカーだけやっていることも正解だとは思いますが、人としての幅は広がらないかなと思います。小池選手には僕がプロ1年目からお世話になっています。今年プロ8年目になるのですがクソガキからガキまで成長できたかなと思います(笑)。

――サッカーだけでは学べなかったことをF-connectを通して学べたと。

野村:そうですね。F-connect1年目は先輩方に付いていくだけで子ども達と交流をしていたのですが、いざ自分が主導で動かなければいけなくなったときに一番成長できました。自分で施設の方と連絡を取り、自分軸で動いていくことで何をしたら良いかと考え始めました。今までは考えなくても良かったことを自分でマネジメントして動かなくてはいけなくなってからはすごく成長できたと思います。

――3選手ともいずれ現役引退を迎えられます。F-connectの活動を現役選手のうちにやっていく中で引退後の生活にどのようなことが生きていきますか?

小池:野村が言ってくれたように、当たり前かもしれませんが自分で動いて、名刺交換をしてということはサッカー選手にはありません。そういう意味では活動をしていく中でビジネスのワンシーンが経験できます。僕自身、サッカーしかしてこなかったのでサッカーしかできないと思っていたのですが、いろんな方のお話を聞いて「自分にもできるのではないか」と自信になりました。それはチャレンジをしないと気付けないことなので、現役のうちからいろんな経験をして視野を広げることがサッカー選手を卒業した後にも活きると思います。
僕が引退をしてもF-connectの活動は続けますが、常に現役の選手が活躍をしてほしい。年齢が上がっていく中で現役を退く選手が出てくるので、よりF-connectのメンバーにも目を向けていかなければいけないと思います。それは課題意識としてあって、僕らがお伝えしたような熱い気持ちを新しく入ってくる選手にもどこかで語ってほしいと思います。興味を持ってくれた選手がたくさん入ってくれて同じ想いを持ってくれるということが理想です。そのためにはF-connectがしっかりとした組織になっていかなければいけないと思うので、僕が現役を退いてもこの活動を大きくできるように頑張っていきたいです。

梶川:この活動がなければサッカーの世界以外の人と接する機会は少なかったと思います。F-connect関係なく、いろんな人に会って話を聞きたいという気持ちになったので、そういう意味では確実に自分のプラスになっています。また小池選手が言ったように、自分たちが引退をしてもこの活動は続けていかなければいけないと思うので、僕たちが引退後社会で活躍できない状況だとF-connectの価値が高くなっていかないと思います。活動を通して引退後のモデルになれたらF-connectの価値も高くなります。これは男子サッカーだけではなく、“FOOTBALL”なのでフットサルや女子サッカーにも広がっていけばいいなと思いますが、そのためにはまずは僕たちがモデルケースになっていたいと思います。

野村:もっと大きく、安定したF-connectになっていればいいなと。そうなれるように成功体験を先に加入している選手たちで増やしていかなければいけないと思います。引退後の方が年齢、経験を重ねて人としての幅も広がっているので、違う形でF-connectに貢献できると思います。

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