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「テンポと間」大学選手権初出場、信頼関係で結ばれる桜美林大の4年生バッテリー

 優勝がかかった帝京大との一戦。初回から4失点の桜美林大だったが、反撃のチャンスはすぐやってきた。2回表2死1,2塁。打席に立つのは、直近6試合で安打のない田島大輔捕手(4年・星槎国際湘南)だ。相手は、今季の初戦で完封負けを喫した帝京大のエース・岡野佑大投手(4年・神戸国際大附)。次の瞬間、田島の打球はレフトスタンドへ飛び込んだ。これで1点差だ。いける。

 そこから得点を重ねた桜美林大は、11-4の逆転勝利。9季ぶり2度目の首都大学野球リーグ優勝を果たした。田島の一発は、間違いなくチームを勢いづけた。

「たまたまですよ。岡野くんから打つような、そんないいバッターじゃないので。天狗にならないで欲しいですね(笑)」

 そう笑いながら言うのは、今季田島とバッテリーを組んできた左腕、多間隼介投手(4年・北海)だ。こんな冗談を言えるほど、多間と田島との間には強い信頼関係があった。

1年生のときから共に頑張ってきた最強バッテリー

 リーグ1位の防御率0.84。130キロ後半の直球と芯を外す変化球で、打者を翻弄する。「打てそうで打てない」とは、こんなときに使う言葉だろうか。多間の投球を観ているとそんなことを思う。何よりも特徴的なのは、投球間隔の短さだ。田島から球を受け取るとすぐセットに入り、気づいたらもう投げている。

「自分の中ではテンポが売りだと思っていて、調子のバロメーターにもなっています。テンポがいいときは、自然といいピッチングになっていますね」

 速いテンポで投げ続ける多間に、打者は自分のペースを崩されるのかもしれない。芯を外された打球は力なく、内野ゴロや平凡な飛球となる。走者が出ると、今度は長めの間をとる。

「ランナーを置いているときこそ、テンポが一定になっちゃうのが一番怖いと思うので、間を置いて自分のリズムを作ります」そんな多間でも、ピンチになることがある。ここで急に存在感を出すのが、捕手の田島だ。今まで多間の速いテンポに合わせて静かにサインを出し続けてきた田島が、急に大声で多間に話しかけだす。

「何投げたいの? これか? この球か? これいっちゃう? お、これか! よーし、思い切ってこい!」

「おー、いい球だ! 次はこれ? こっち? これね!」

 こうやって1球1球サインを確認しながら、投手に大きな声で話しかけるのは、田島の戦略のひとつだ。

「ピンチのときは、アップアップになりどんどんテンポが速くなって打たれることが多いので、意識して間を空けるためにやっています。ピッチャーとしっかりコミュニケーションをとる意味もあって、首を振るサインでわざと振らせたり、わざとボール球を投げさせたり、あとはピッチャーの投げたい球を投げさせる、そんな感じですね。キャッチャーとしてはこういうときこそピッチャーの投げやすいボール、自信のあるボールを投げさせようと思っています。相手のバッターから嫌がられるとは聞いていますけど、僕にとってもリラックスするというか、いい配球に繋がる気がします」

 この声掛けは、同じ捕手の松江京主将(4年・二松学舎大附)から学んだそうだが、多間も「投げていて楽しいというか、リラックスさせてくれる。自分は合っていますね」と言う。田島のことをふざけて「たいした選手じゃないですよ」と言ったりもする多間だが、ふとした瞬間に本当の思いを口にする。「1年生のころからずっとブルペンで一緒に頑張ってきた仲だったので、他の人とは格が違うほど田島をキャッチャーとして信頼しています。あいつのリードを信じて投げているだけなんで、自分は」

 走者がいないときは、田島のサインでテンポ良く投げる。ピンチの場面では声掛けで間を空けて落ち着かせ、投手が自信を持って投げられる球を投げる。多間は、場面によって細やかな対応をしてくれる田島が、自分の良さを引き出してくれていると感じていた。 

 そんな田島が、捕手として一番大切にしていることは「気づく」ことだ。

「とにかく視野を広く持って、いろいろなところに目配りして気づく。気づいて仲間たちを助けたいです。僕はみんなを信頼しているので、僕も信頼されるキャッチャーになりたい」

 すでに信頼を得ている田島だが、常に自分はまだまだ足りないと考えている。今季、たった1度だけショートバウンドの球を後ろにそらしてしまった。記録はワイルドピッチだったが、それが相手の決勝点となり負けてしまった。田島は「あれはパスボールです。捕れなくて情けない」と自分を責めた。先制点を取られれば自分のせいだと下を向く。試合後もひとりだけ落ち込んだりする。他の選手たちは、どんなときも前を向くことで優勝へと突き進んできたが、田島に限ってはこのネガティブな気持ちを力に変えることで成長してきたように感じる。

初の大学選手権出場、楽しむ気持ち

 リーグ優勝を果たした桜美林大は、6月7日から始まる全日本大学野球選手権大会に臨む。

「神宮球場は、自分自身初めての経験です。ここまで楽しみきれていないので神宮では楽しみたいと思います」そう意気込みを話す多間だったが、リーグ戦中には好投していたにも関わらず、足がつって途中降板することが何度かあった。多間の唯一の不安要素と感じていたが、経口補水液などの対策ですでに解決できているそうだ。万全な状態で臨んで欲しい。

 大学選手権はトーナメント戦。勝ち進むほど連戦になる。多間の他にも、リーグ戦で4試合に先発した土生翔太投手(3年・横浜)、先発・リリーフをこなした森田南々斗投手(4年・日大山形)などに、先発登板の可能性がある。そして、リリーフで頼りにされているのが山本雅樹投手(3年・中越)だ。津野裕幸監督も「(先発メンバーの力だけではなく)2番手や次に出ていく選手の活躍で我々は勝つことができる、という話を選手たちによくしていますが、そういう面ではやっぱり山本の存在が大きいです」と言うほどで、リーグ戦では最高殊勲選手にも選ばれた。 

 野手では、ショートの守備に定評がある森田智貴内野手(3年・霞ヶ浦)が、打撃でもリーグ3位の打率を残した。どんな細かい攻撃にも対応できる器用さがある上に、長打も打てる。他にも「破壊力」というあだ名がつくほどのパワーの持ち主、中野航太外野手(4年・明大中野)など、積極的な打撃をする選手が揃っており、大学選手権での活躍も期待される。

 「サインプレーで動き回る野球」を貫いてきた桜美林大は、大学選手権でも変わらず自分たちの野球をすることだろう。多間と田島のバッテリーはもちろん、スタンドを含めた全員で戦う桜美林大の姿をしっかりと見て欲しい。

好きな時に好きなだけ神宮球場で野球観戦ができる環境に身を置きたいと思い、OLを辞め北海道から上京。 「三度の飯より野球が大好き」というキャッチフレーズと共にタレント活動をしながら、プロ野球・アマチュア野球を年間200試合以上観戦。気になるリーグや選手を取材し独自の視点で伝えるライターとしても活動している。 大学野球、社会人野球を中心に、記者が少なく情報が届かない大会などに自ら赴き、情報を必要とする人に発信する役割も担う。 面白いのに日の当たりづらいリーグや選手を太陽の下に引っ張り出すことを目標とする。

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