eスポーツ×ビジネスの可能性 世界が熱狂するエンタメの力

近年注目を集める「eスポーツ」と呼ばれるスポーツがあります。

「eスポーツ」は、いわゆる「テレビゲーム」や「ビデオゲーム」といったような電子機器を使用して行う娯楽のことですが、単なる「ゲーム」ではなく「スポーツ」として認知されるようになってきています。

日本でも、「eスポーツ」をただ「ゲーム」として楽しむだけではなく、「高齢者の介護予防」や「地域活性化」などに活用する例も出てきました。

そこで、今回は「eスポーツ」の成り立ちや歴史を振り返りつつ、「産業」や「ビジネス」としての可能性について考えてみたいと思います。


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もくじ

  • 1 「eスポーツ」ってそもそもなに? デジタル時代のニュースポーツ
  • 2 「ゲーム」がなぜ「スポーツ」になったのか?
    • 2.1 2018年が日本の「eスポーツ元年」と呼ばれる理由
  • 3 「eスポーツ」はどんなビジネス?
    • 3.1 eスポーツの市場規模 ~ゲーム産業は世界3位。eスポーツとしては?~
    • 3.2 eスポーツはどうやって稼いでいるのか?
  • 4 「eスポーツ」を活用した事例
    • 4.1 eスポーツ×プロ野球 バーチャルとリアルのスポーツが融合
    • 4.2 eスポーツで地域振興 茨城県が目指すeスポーツ・エコシステム
  • 5 まとめ ~eスポーツは生まれたばかり どう育てるかが大事~

「eスポーツ」ってそもそもなに? デジタル時代のニュースポーツ

まずは、「eスポーツ」というものはそもそも何なのか、今までの「スポーツ」とは何が違うのか?といったことを考えてみます。

「eスポーツ」は「エレクトロニックスポーツ(electronic sports)」を省略した呼び方です。

簡単に言えば、「コンピューターゲーム(電子機器)を使って行うスポーツ」ということになります。

コンピューターゲームには、

✔ アーケードゲーム(ゲームセンターに置いてあるゲーム)

✔ コンシューマーゲーム(一般の家庭で楽しむゲーム)

✔ PCゲーム (パソコンを利用して行うゲーム)

✔ スマホゲーム(スマートフォンで行うゲーム)

といった種類があります。

eスポーツは、これらの種類の中からいずれかを使用して、ゲーム上で「個人対戦」「チーム対戦」などを行って勝敗を決める対戦形式のものが主流となっています。

代表的なものとしては、対戦型格闘ゲームの「ストリートファイター シリーズ」や野球ゲームの「実況パワフルプロ野球 シリーズ」などが挙げられます。

「ストリートファイター」や「実況パワフルプロ野球」はとても歴史が長く、私も小中学生の頃によくプレイしましたが、当時は誰も「スポーツをしている」という感覚でゲームをしていませんでした。

単に、「テレビの画面を使ってゲームをする」というだけでしたし、世間一般的にも「スポーツは健康に良いが、ゲームは健康に悪い」というイメージが強かったと思います。

それがなぜ「スポーツ」になったのでしょうか?

「ゲーム」がなぜ「スポーツ」になったのか?

「コンピューターゲーム」が「スポーツ」と認識され、「eスポーツ」という新しい分野が誕生した理由を知るためには、いま一度「スポーツ」の意味を理解する必要があります。

1948年にフランスで出版された『スポーツの歴史』(ベルナール・ジレ著)という本によれば、スポーツというものは

① 遊戯

② 闘争

③ 激しい肉体活動

という3つの条件が揃う必要があると述べられています。

また、2018年版『広辞苑』の「スポーツ」の説明にも、「遊戯、競争、肉体的鍛錬」という単語が記載されており、「スポーツは、遊びの要素があり、他者との競争があり、身体を動かすものである」というのが一般的な定義であると思われます。

しかし、「スポーツ」という言葉がイギリスで誕生した16世紀~17世紀にかけては、「移動する」ということが本来の「スポーツ」の意味であったとされています。

「いつも生活している場所から離れる」ことや「気晴らしをする」という意味で使われていました。

つまり「スポーツ」という言葉自体、明確な定義が難しく、時代によって変わってきていると言えます。

「コンピューターゲーム」は基本的には椅子に座ってコントローラーやキーボードなどを操作しながら行われる場合が多いですが、「遊び」「気晴らし」「他者との競争」という要素が入っていると考えれば、「スポーツである」と言える可能性が十分にある、ということです。イギリスのスポーツ史を学んでビジネスに活かす

2018年が日本の「eスポーツ元年」と呼ばれる理由

現在「eスポーツ」と呼ばれて楽しまれているものは、アメリカや韓国といった国で登場して発展してきたものであるとされています。

アメリカでは、1997年頃からPCゲームの大会が開催され、優勝者には優勝商品として高級スポーツカーの「フェラーリ」が贈呈されたとのことです。

この大会がきっかけとなり、アメリカ各地で高額な賞金や商品がかけられた大会が開催されるようになり、そうした賞金などを稼いで生活する人は「プロゲーマー」と呼ばれるようになりました。

また、韓国でも2000年頃からゲーム大会が盛り上がりを見せ、プロゲーマーがプロスポーツ選手やタレントと同じくらいの人気を得ていきました。

こうした人たちは、「ゲームをする」というスキルで注目を集めて賞金などを得ていくと同時に、「ゲームをみる」という人たちが増えたことによって、熱狂が生まれていきました。

すでに、韓国では1999年に「eスポーツ」という言葉が使われていたと言います。

一方、日本においても「任天堂シリーズ」や「ソニー・プレイステーション」など、ゲームは爆発的な人気を得ており、各地でゲーム大会なども開催されていましたが、「他人がプレイするゲームをみる」という習慣があまり定着せず、2016年頃までは「eスポーツ」はほとんど注目されていませんでした。

その状況が変わったのが2018年です。

2018年の日本のeスポーツ業界には、

✔ 「一般社団法人 日本eスポーツ連合(JeSU)」が設立

✔ eスポーツが「第18回アジア競技大会ジャカルタ・パレンバン」の公開競技に採用

✔ 同大会で、日本チームが「ウイニングイレブン」で優勝

✔ アジア・オリンピック評議会が2022年の中国・杭州大会で、eスポーツを公式種目に採用すると決定

✔ スポーツ庁が、eスポーツについて日本学術会議で諮問

といったように、eスポーツの注目度の上昇や今後の可能性を感じさせる出来事がいくつも重なりました。

そして、「eスポーツ」は2018年のユーキャン新語・流行語大賞「ヒット商品番付」で、西の小結、「流行語大賞」の候補にも選ばれました。

こうしてeスポーツに対する社会の認知度が一気に広まったことや、プロ野球やJリーグ、吉本興業といった企業もeスポーツに続々と参入するようになったことで、「ビジネス」としての可能性も大きくなってきています。

「eスポーツ」はどんなビジネス?

ここでは、「eスポーツ」の市場規模と、ビジネス構造について見て行きたいと思います。

eスポーツの市場規模 ~ゲーム産業は世界3位。eスポーツとしては?~

まず、日本のeスポーツが現時点でどれくらいの市場規模なのかを見て行きます。https://datastudio.google.com/embed/reporting/bec30782-66a5-430e-abe5-f9d3c83ba507/page/wFOvB

「KADOKAWA Game Linkag」のレポートによれば、日本のeスポーツの市場規模は2020年時点では約75億円となっています。

日本のスポーツ産業全体の規模は5兆円~7兆円程度とされていますので、仮に日本全体のスポーツ産業を5兆円とした場合のeスポーツ市場の割合は0.1%程度でしかありません。

ただし、「ゲーム産業」というもう少し大きい視点で見れば、日本のゲーム産業は約1.7兆円(2018年時点)の規模がありますので、これらが既存のスポーツ産業と絡み合うことによってより大きな市場を生み出せる可能性はあると思います。https://datastudio.google.com/embed/reporting/bec30782-66a5-430e-abe5-f9d3c83ba507/page/dWOvB

また、日本は「ゲーム産業」という点で見ると中国、アメリカに次ぐ世界3位の規模を誇ってますので、「ゲームがとても盛んな国である」と言えますが、「eスポーツ」だけに限定してみると、アメリカや中国には遠く及ばず、産業としては発展途上であるというのが分かります。

以下の図は、「一般社団法人 日本eスポーツ連合」が2020年3月に公表した報告書から引用したものですが、eスポーツは単に「ゲームをする・みる」というだけではなく、地方での大会開催による経済効果や観光業促進、医療・ヘルスケアへの活用など、様々な周辺分野に影響を及ぼすものと捉えられています。

eスポーツを活性化させるための方策に関する検討会 : 一般社団法人日本eスポーツ連合(2020年3月)より引用

eスポーツはどうやって稼いでいるのか?

次に、「eスポーツ」はビジネスとしてどのように稼いでいるのかを見て行きます。https://datastudio.google.com/embed/reporting/bec30782-66a5-430e-abe5-f9d3c83ba507/page/sKOvB

先ほどもご紹介しましたが、「KADOKAWA Game Linkag」のレポートによればeスポーツの収益構造は「スポンサー収入」によって多くの部分が成り立っています。

つまり、ゲームをすることそのものに価値があるというよりは、多くの人がプレイしたり見たりする「eスポーツ」というものを通じて、自分の会社の宣伝をしたい企業によって支えられているということです。

したがって、eスポーツを支えているのはゲーム会社やメディア会社だけではなく、「トヨタ自動車」に代表されるような大企業や、「吉本興業」などのエンタメ企業、「ー般社団法人日本野球機構(NPB)」や「ゼビオグループ」などの既存のスポーツ産業の企業など、多くの企業がeスポーツをビジネスチャンスと捉えてスポンサーになったり、チームを所有したりする動きが活発になってきています。

また、eスポーツのビジネスモデルは以下の図のようになっています。

分かりやすくするために簡単にしていますので実際にはもう少し複雑ですが、eスポーツビジネスに関わる主要な利害関係者は、

✔ 大会主催者

✔ チーム・選手

✔ 大会開催会場・会場運営企業

✔ メディア

✔ スポンサー

eスポーツビジネスに関わる主要なプレイヤー

といった構造になっています。

基本的には、「ゴルフ」や「テニス」「ボクシング」などと同じようなビジネスモデルになっていると言えます。

ファンが増えるほど大会としての価値が高まり、スポンサー料や放送権料が上がっていくのは言うまでもありませんが、現実としては日本国内でeスポーツの賞金やスポンサー収入だけで生活できている人はほぼいないとのことです。

また、eスポーツはまだまだ国内での歴史が浅いため一般的な業務契約などがなく、「eスポーツプレーヤーは仕事があるときだけお金をもらう」といったような、芸能事務所とタレントのような関係だとも言われています。

今後のビジネスとしての発展に期待ですね。プロスポーツビジネスは4つの収入で稼いでいる!

「eスポーツ」を活用した事例

最後に、eスポーツを活用して新たなビジネスチャンスや地域活性化を目指す例を2つほどご紹介したいと思います。

eスポーツ×プロ野球 バーチャルとリアルのスポーツが融合

プロ野球は日本のスポーツにおいて最も有名なプロスポーツと言えますが、2018年からeスポーツに参入し、12球団対抗戦として「eBASEBALLプロリーグ」と「NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2」を開催しています。

プロ野球 eスポーツリーグ「eBASEBALL プロリーグ」公式サイトより

プロ野球がeスポーツに参入した背景としては、「ファンの高齢化・ファン人数の減少」といった課題をeスポーツを通じて解決したいという狙いがあったようです。

近年、プロ野球の観客動員数は伸びており、2019年には過去最高の観客動員数を記録しました。

しかし、メインの客層が「30代~40代の男性」となっていることで、なかなか若者や女性を取り込めないといったことや、「同じ人が1年に何回もスタジアムに来ることで観客動員数が増えているが、ファンそのものの数は増えていない」という課題を感じていました。

そこで、人気ゲームの「実況パワフルプロ野球」や「スプラトゥーン2」をプロ野球と絡めることで、これまでプロ野球に接点のなかった人たちや、若者に興味を持ってもらおうと考えたのです。

こうした取り組みが功を奏し、2019年5月に開催された「NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2」は二日間で2000人以上が来場し、インターネットによる生中継でも10万人以上が視聴するなど、確実に盛り上がりを見せています。

eスポーツで地域振興 茨城県が目指すeスポーツ・エコシステム

茨城県では、2019年10月に「いきいき茨城ゆめ国体」の文化プログラムとして「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」を開催しました。



全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI公式サイトより

国体に関連した全国規模のeスポーツとしては史上初の取り組みとなりましたが、茨城県ではeスポーツを単に一過性のイベントという位置づけではなく、「地域産業を活性化する」という目的でeスポーツを活用するビジョンを描いています。

茨城県では、ゲーム会社や大手企業に依存してeスポーツを推進するのではなく、地域の産業として定着させる「eスポーツ・エコシステムづくりへの挑戦」を掲げ、県内企業を中心に自治体や学校が連携したeスポーツ競技環境の整備、既存の観光資源と組み合わせたeスポーツ・ツーリズムの推進、そしてこれらを通じたeスポーツ関連ビジネ人の誘致・創出を目標としています。スポーツツーリズムが持つ「スポーツ×旅行・観光」の可能性【事例つき】

具体的な取り組みとしては、ゲーミングPCやモニター等を県所有の施設に常設してeスポーツを体験してもらうことや、eスポーツビジネスに参入したい企業を対象とした「eスポーツアカデミー」、eスポーツを通じて様々な事業者などが交流する「eスポーツ産業創造フォーラム」などの取り組みを行っています。

上記のプロ野球の事例も同様ですが、「eスポーツビジネス」の課題としては、まだまだ認知度が低く、活動を知ってもらう、理解してもらうという点が大変なことや、収益化までの道のりが遠いといったことが挙げられます。

既存のプロスポーツでさえも収益化は簡単ではないことから、eスポーツをビジネスとして成り立たせることはまだまだ課題が山積みですが、新時代のスポーツとして広がってくことは間違いないでしょう。

まとめ ~eスポーツは生まれたばかり どう育てるかが大事~

今回は、\eスポーツ×ビジネスの可能性 世界が熱狂するエンタメの力/ということで、近年話題となっている新時代のスポーツである「eスポーツ」に注目してみました。

今回の記事をまとめると、

✔ 「eスポーツ」はこれまでのテレビゲームの枠を超えた広がりをみせている

✔ 「スポーツ」そのものが時代と共に変化している

✔ 日本では2018年をきっかけにeスポーツの注目が高まってきた

✔ 日本のeスポーツ産業は年々伸びており、2020年時点では75億円程度の規模になっている

✔ 世界のeスポーツに目を向けると、日本はまだまだ発展途上

✔ eスポーツは「スポンサー収入」によって成り立っている部分が大きい

✔ eスポーツのビジネスモデルは「テニス」や「ゴルフ」と非常に近い

✔ eスポーツを既存のスポーツや他産業と組み合わせることで新たな可能性が広がる

といったことをお伝えしてきました。

日本ではまだまだ「eスポーツはスポーツではない」といった意見もあるようですが、10代・20代を中心に若者から熱狂的な支持を集める「eスポーツ」が、これまでのスポーツ産業の構造やビジネスを大きく変えていく可能性は少なくないと思います。

「スポーツ」は時代と共に変わるものです。

新たな時代の「スポーツ」を一緒に作っていきたいですね!!


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記事提供
ゼロからのスポーツビジネス入門 須賀 優樹

「世界で一番優しくスポーツビジネスを学べる場をつくる!」を目標に、スポーツ業界に入りたい人、活躍したい人をこれまで多数支援。学生時代の専門は「スポーツマーケティング」。現在は大手企業のデジタルマーケティングやビッグデータ分析のコンサルティング、スポーツ団体の新規事業支援などをやっています。

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